ガーデンデザイナーの基本

 庭とは、単に家の外にある余白ではありません。それは、硬質な人工物である「建築」と、移ろいゆく有機体である「自然」を調停し、一つの生活空間として統合する「中間領域」です。古来、日本の住まいは縁側という装置を通じて、内と外を曖昧に繋いできました。この中間領域こそが、人間の暮らしに安らぎと奥行きを与えるものです。

 建築は、雨風を凌ぎ、プライバシーを守るための「遮断」の論理で構築される。対して自然は、光、風、雨、そして季節の移ろいという「開放」の論理で動いている。ガーデンデザイナーの役割は、この相反する二つの要素を衝突させるのではなく、グラデーションのように繋ぐことにあリます。

 例えば、リビングの大きな窓から見える景色が、単なる隣家の壁であれば、そこは閉鎖的な箱に過ぎない。しかし、そこに一枚の葉が揺れ、木漏れ日が差し込む庭があれば、室内の空気感は一変する。建築の境界線が庭によって外側へと拡張され、居住者は物理的な面積以上の広がりを精神的に享受することになる。これが「中間領域」としての庭が持つ最大の機能です。

 また、この領域は「気候の緩衝地帯」としても機能する。夏の強い日差しを落葉樹が遮り、冬は葉を落として暖かな陽光を室内に招き入れる。あるいは、庭を通り抜ける風が室内の熱を奪い去る。こうしたパッシブな環境制御は、自然と建築を繋ぐデザイナーの知恵があって初めて成立します。

 現代社会において、人間が野生の自然の中で暮らすことは困難だが、完全に無機質な箱の中で生きることもまた、精神的な飢餓を招く。庭という中間領域は、人間が人間らしくあるために、自然を「生活のスケール」に翻訳して取り込む聖域なのです。デザイナーはこの重みを理解し、建築の延長線上にいかに豊かな自然の断片を編み込むかを考え抜かなければなりません。

ガーデンデザイナー必携のガーデンの奥義 発売開始!

江戸のガーデンデザイナーバイブル「築山庭造伝」超訳
5坪を聖域に変える、江戸の魔法 庭に命を吹き込む ガーデンの奥義

推薦の言葉

「温故知新」の先に、真の日本の美学があります。

私たちが生きる二十一世紀の造園・外構デザインの現場は、高度な技術と多様な素材、そして効率的なデジタル設計に支えられています。

しかし、その一方で「庭の骨格」となるべき普遍的な理(ことわり)や、自然と対峙する際の「心の構え」を、私たちはどこかに置き忘れてはいないでしょうか。

日本ガーデンデザイナー協会が自信を持って推薦する現代のガーデンデザイナーのための石と花と水、庭に命を吹き込む 『築山庭造伝』 ガーデンの奥義は、江戸時代の名著を単に懐古するものではありません。

むしろ、情報が氾濫する現代だからこそ立ち戻るべき、庭造りの「原点」を指し示す羅針盤です。

本書に記された石の据え方、水の導き方、そして植栽の疎密に宿る思想は、数世紀にわたり日本の風土と日本人の美意識が磨き上げた「最適解」の集成です。それらは、現代のCAD図面の上に、生命力という名の血を通わせるための鍵となります。

「古書現代語復刻出版を推める会」の手によって、難解な古文書が息を呑むほど鮮やかな現代の知恵へと昇華されました。プロのデザイナーにとっては実務を支える深い洞察として、また庭を志す若き人々にとっては、先人からの熱いエールとして、本書が広く読み継がれることを切に願います。江戸の知恵を、現代の感性で編み直す。その先にこそ、次世代に誇れる「日本の庭」の未来があると確信しています。

本書は、付録として現代の都市の狭小地において築山庭造伝の奥義を取り入れた現代の庭へのアプローチも具体的に提案してくれています。より一層の現代の庭への楽しみを実現してくれているものと言えるでしょう。

『築山庭造伝』は、単なるマニュアル本ではありません。そこには、自然を凝縮し、限られた空間の中に宇宙を見出すための、驚くほど緻密で哲学的な設計思想が記されています。

* 真・行・草の使い分け:空間の格調を決定づける「型」の意識。

* 石の「意志」を読み解く:石を単なる資材ではなく、命あるものとして配置する感性。

* 景の連続性:一歩進むごとに変化する視界の計算(シークエンス)。

これらは、現代のランドスケープデザインやプライベートガーデンの設計においても、決して色あせることのない普遍的な「庭の奥義」です。

本書に込めた意義

残念ながら、原本は古文であり、現代の設計実務に携わる方々にとって、その門戸は必ずしも広くありませんでした。 そこで、本書は日本ガーデンデザイナー協会推薦、「古書現代語復刻出版を進める会」編として、この至宝を現代の言葉で、そして当時のパース図のビジュアル化で蘇らせることを試みたものです。

本書は、単なる古書の現代語訳に留まりません。江戸の職人たちが大切にしていた「自然への畏敬」と「遊び心」を抽出し、現代のデザイナーが直面する課題に対するヒントとして再構築しています。

庭を造るということは、そこに住まう人の心に寄り添い、風景を編むこと。

江戸の匠たちが残した「言葉の種」が、皆さまの手によって現代の地に美しい花を咲かせることを、編者一同切に願っております。

※出来るだけリアリティが出るように、私たちは原本に色をつけてみました。江戸の人々は自分で色を想像していたのでしょう。